令和6年の法改正での変更事項。養育費はどう変わっていくのでしょうか?
養育費確保の方向での改正へ
ニュース報道では,離婚後共同親権の是非などの点が強調されていたように思いますが,令和6年に民法の家族法部分のうち,親権や養育費・財産分与等の事項について改正が行われました。施行は,改正法成立後2年以内とされており,この記事作成の時点でははっきりしていません。まだ細かな事項も明らかになっていない部分もありますが,今回は改正内容のうち,養育費についてその概略を触れておきます。
改正の方向の基本的な点は,養育費の不払いが統計上多いとされることや養育費の取り決めがそもそも難しい場合を念頭に,養育費をどう確保するかという点に沿った改正がなされています。この意味でのポイント(後で触れる調停や裁判の話は除きます)は,次のようなものです。
〇養育費に関する差押手続きが,公正証書や調停調書がなくてもできるようになったこと(金額の合意がない場合でも活用の方法ができたこと)
〇養育費の合意がない場合でも,法令上規定される「法定養育費」の制度が導入され,この確保ができる
といった制度が導入されることになったこと
〇差押えのための財産情報を得るための「情報取得手続」が使いやすくなったこと等
これが主なものです。上二つは,法定養育費について差押えを可能にするという意味合いです。現時点法定養育費の金額は定めていませんが(令和6年11月時点,ただし議論中),これを上回る金額を調停などで取り決める場合には現在と同じく離婚調停や公正証書に基づく差押えが必要となります。
このうち,一つ目のものは,養育費の支払いに関する合意書があれば,公正証書(公証人役場で作成する書類。費用がかかります)・離婚調停での調停調書がなくても,差押えの手続きを行うことができるようになります。しかも,法令上の担保権を与えられるので,一定の範囲で他の支払いに対して優先回収を行うことができるようになります。二つ目で書く法定養育費に関して,ここまでの回収の便宜を与えるものとなります。
この制度導入の意味は,調停や公正証書がなくても手間が少なく,他の支払いに優先(現在は優先まではなし)できるという意味合いがあります。ちなみに,離婚前の婚姻費用にはここまでの制度はありません。
次に二つ目ですが,これは合意を補完するものとして,少なくとも法令で定められた養育費額を確保できるようにするという意味合いがあります。現在,養育費は明確な合意・家庭裁判所での調停や審判で決まる形となり,具体的な請求行為の時から(離婚後の請求の場合)請求とされることになっています。
これに対し,離婚成立の時点から法定養育費の支払い義務が出てくるとされています。ここでは細かい話は触れませんが,法定養育費については,支払う側の収入や資産を問題としない(現在の標準算定表ではこれら,特に収入を大きく考慮)ため,収入や支払いなどの事情によっては支払いの免除や猶予を申し入れる手続きも導入されています。あくまでも法定養育費の支払いによって生活が窮乏することを証明した場合の制度ですから,相当のハードル自体が存在します。
法定養育費についても,現在取り決めた養育費の不払いがある場合に,給与に対する差押手続きに入られるとその後の支払期限のものも差押えがされるという話がそのまま当てはまります。改正によっても,取り決めた養育費の不払いはその後の給与差し押さえの問題が出ます。法定養育費の場合には特に取り決めがないので,先ほど触れた新設される「法律上の担保権(一般の先取特権と呼ばれるもの)」に基づき,給与の差押えが続くという意味合いです。担保権の手続きについての支払いを求められている側の関与の話も一部改正されていますが,ここでは省略します。
最後の点は,公正証書や調停調書がなくても差押えができることになった点を踏まえて,養育費については法律上の担保権に基づき,差押えの対象を調べるための支払い側の情報取得手続き(収入や財産情報取得のための手続き)を使うことができます。また,差し押さえるものが給与である場合には,これまで情報開示・差押えと別の申立てをもう一回する必要があったものが,一回の申立てで対応できるようになり,使い勝手の改善がされています。回収側にとっては,手間と費用が少なくなるという面もあります。
離婚調停や離婚裁判での変更点とは
家庭裁判所での手続きの変更点は,養育費の金額を決めるための収入金額の開示が間接的に義務付けられたということです。先ほど触れた法定養育費は,あくまでも合意がない場合であっても確保を図る制度とされていますが,合意があればそれ以上もありうるという形になります。ちなみに,現在の合意のための標準算定表と法定養育費が実際どの程度異なるのかは今の時点で不明です。
そして,収入状況などによって養育費額の取り決めをする場合には,収入資料(特に支払いを求められる側)が必要とされています。実際に家庭裁判所の手続きでは提出を求められることが通常であるように思います。応じない場合に今の制度では特に罰則はありません。ただし,賃金統計・生活水準などからの推定計算や特に審判や裁判手続きでは照会(調査嘱託)をかけられることがあります。
改正は,離婚調停の場面であっても,必要がある場合に家庭裁判所から,収入資料の提出を「命じられる」制度が導入されます。正当な理由なく開示しない場合には,10万円以下の過料の支払いを命じられることもあります。このことによって,収入資料の提出をもたらすための改正と言えます。
応じないことでのデメリットは増える可能性があります。