令和6年の法改正での変更事項。養育費はどう変わっていくのでしょうか?(その②)
法定養育費とは?養育費の取り決めの必要性はどうなるのでしょうか?
別のコラムで,令和6年に改正された民法の養育費に関する概要を記載しましたが,今回どこが変わったのかを整理して記載します。なお,法定養育費の内容等令和7年5月時点の情報で記載していますので,こちらは明確になり次第別の記事で補足します。
まず,大きな改正点の一つとして,「法定養育費」の制度が設けられました。法定養育費というと,養育費の取り決めをしなくても良くなったかといえば,そうではありません。あくまでも,離婚成立の後,養育費の取り決めをしていない場合に,子どもの監護を事実上している側の親が,そうでない方の親に対して請求できる養育費という意味合いが大雑把に言った意味です。
現状養育費は,個別の事情(標準算定方式の場合には,主に双方の収入を基に算定したもの)を踏まえて取り決めをしていくもので,話がつかない場合には家庭裁判所での裁判(離婚裁判の場合)・審判(離婚後の場合)で裁判所が決めることになります。
法定養育費は,こうした取り決めをしないままである場合であっても,請求ができるものです。法定養育費は,子どもの最低限の生活をするために必要と思われる水準確保を念頭に法令で定められた金額(法務省令で定める予定)を請求できるとするものです。終わりの時期は取り決めをするか・子どもが成人に達する(20歳までではありません)まで請求が可能となるものです。夫婦双方の収入を考慮することなく決まるものであることが取り決めの場合とは異なります。
夫婦双方の収入を踏まえた,最低限の生活水準以上の金額を取り決める場合には,これまでと同じく家庭裁判所での手続きあるいは双方の話し合いで決められるならば,協議で取り決めることになります。支払いを求められる側からすれば,離婚協議での取り決めや家庭裁判所での手続きがなくとも,一定程度の金額までは養育費の請求を受けられることがあるという点が重要になります。
ちなみに,法令で水準が決まっていて,取り決めもなくとも強制回収を受ける可能性があることもあって,支払い能力のない方にとっての保護のための制度も設けられています。差押えの手続きについては,支払いを求められる側の話を聞く手続きが設けられます。また,養育費の取り決めの際に,それまで未払いであった法定養育費の免除や支払い猶予を含めた,未払分の対応を家庭裁判所が決めることができるようになりました。法令上は「相当な処分」を家庭裁判所は行うことができるとされています。ちなみに,支払いすぎがある場合の返還まではここで想定されてはいません。
未払いについてはどうなのでしょうか?
養育費について未払いがある場合には差押手続きを受ける可能性がリスクである点は,法改正の前後では変わりません。そのリスクには,延滞があると今後の養育費についても差押えの効力が続く点はこれまでと同じです。
異なる点は,法定養育費を含めて,公正証書や調停など差押えが当然にできる書類がなくとも,一定の資料があれば,差押えの手続きが設けられるようになったという点があります。しかも,他の支払いに比べて優先的な回収をされてしまうようになるというものです。ここでいう一定の資料が具体的に何を指すのかは令和7年5月の段階でははっきりはしていない面もあります。ここでいう優先回収を受けてしまう範囲は,例えば,夫婦間で取り決めをした場合にその全額になるのかといえばそうではありません。特に高く取り決めたとしても,優先回収を受けるのは「子の監護に要する費用のうち相当な額」として,高額すぎる部分まですべてに及ぶわけではありません。
ただし,優先回収は回収側にとっては大きな意味を持ちますが,回収を受ける側からみれば,改正の前後で変化があるわけではありません。要は,優先回収をされる範囲には限界はあるものの,結局養育費の取り決めをすれば,その全体が差押えと回収を受けるリスクがある点は改正の前後で変わらないということになります。
そのほか,回収手続き自体が回収を図る側にとって使い勝手のいい手続き(給与からの回収を図る場合)へと変容され,給与や財産情報の収集と差押え手続きのワンセット化が可能となる法改正がされています。
先ほど触れましたが,支払い能力がない場合の権利保護のために言い分を聞く手続きが設けられるなどした面はありますが,回収リスクが高まる改正という面はあります。子どものことも考えての対応やトラブル防止のための対応は重要ですが,こうしたリスクその他の動向にも注意は必要かと思われます。