暴言などを理由とした接近禁止命令はされるのでしょうか?
接近禁止命令とは?他にどのような制度があるのでしょうか?
配偶者等からの暴力(DV)に関する被害者を保護するための措置などを定める措置の一つに,接近禁止命令があります。他には,電話等禁止命令や家からの退去命令等も存在し,後で触れる令和5年の法律改正(令和6年4月1日から施行のため,既に改正内容は施行されています)でこれらの制度には変更点があります。このうち,接近禁止命令を今回は触れておきます。
接近禁止命令は,身辺の付きまといやはいかい行為をしてはならないという規制です。裁判所に対する申立てを行い,裁判所で要件を満たすかどうかの審理を行い,要件を満たすと裁判所が認める場合に発令されます。違反に対しては刑事罰が存在し,逮捕などがされる可能性があります(違反の場合)。男性が被害者になることもありえますし,申し立てを行うことはできます(ただし,法律は女性被害者を想定)。
ただ,実際には男性がDVを行ったということで申し立てられるケースが多い印象がありますので,その前提で記載します。ちなみに,申立てがあった場合に,これを放っておくと相手の言い分通りに命令が出される可能性は高くなりますし,迅速に判断を行うとされているので,対応もまた迅速に行う必要があります。かなり迅速を要する手続きではあります。
令和5年法改正によって,それまで6か月であった接近禁止命令の期間は1年に延長されるとともに,違反した場合の罰則が厳罰化しています。法定刑が懲役刑(今後拘禁刑となります)1年以下から2年以下へ,または罰金が100万円以下から200万円以下へと増えています。
他には,電話等禁止命令には,電話やメールの送付(連続送信や深夜帯の送付)・ショートメッセージやSNSのメッセージや書込み(ブログなどを含む)などの禁止や位置情報を取得するためのGPSの取り付けの禁止など(こちらはストーカ―の規制でも改正で追加)がされています。子どもへの電話等禁止命令も制度として追加されています。退去命令は,引っ越しの準備などのために,期間を限定して家から出て行ってもらう手続きです。この内容も法改正によって変更されている部分があります。
令和5年の法改正による変更点
変更点のうちいくつかは既に挙げていますが,厳罰化や期間の延長・対応措置の追加等があります。接近禁止命令の関係で言えば,これまで暴力によって生命身体に対する重大な危険がなければ発令をされなかったのに対して,自由,名誉,財産に対する脅迫による場合も追加されました。要は,モラハラ行為の場合であっても発令される場合が出てきたというものです。
ここでいう「脅迫」とは,今後危害を加えるものに対して限定されますが,言うことを聞かないと家から出さない・仕事を辞めさせる・土下座をさせる・キャッシュカードなどを取り上げる,等の行為がその一つとなります。それ以外にも,性的な画像を投稿する・インターネット上に悪評を書き込むなどと告げる行為も該当するとされています。これに対して,単に怒鳴る・無視をする・馬鹿にする言動,生活費を渡さない等の行動はそれ自体では該当しないとされています。これらは,他の事情と合わせてどうかということですので,他に該当するものがあるとは,全体としてみれば脅迫になるようなケースでは話が変わってきます。
「脅迫」については,生命・身体だけでなく,精神に対する重大な危害を受けるおそれがあることも必要となります。単に先ほど受けた脅迫があるだけでは足りないという話になります。ここでいう,「重大な危害」とは少なくとも通院治療が必要なものとされていますから,うつ病やPTSD・不安障害や適応障害等が想定されていて,これらの診断書をつけて申立てがなされた場合には,これらの結びつきやさらなる暴力などのおそれが具体的に申立書で書いてあるかどうかが重要になっていきます。「脅迫」の有無自体はあった・なかったになりやすいところがありますので,裏付け証拠があるのかどうかは重要になっていきます。診断書がない場合には,申立側の立証もできないケースが十分考えられます。
申立側が,これらの資料や言い分を具体的に記載している場合には,きちんと反論や反証を行う(事実関係等を争う場合)必要があります。事実関係等を争わない場合には,一度保護命令(接近禁止命令など)が出されることも考えたうえで,退去命令まで求めてきていてそこまでは争うのか等対応を決める必要が出てくるでしょう。