妻が年金分割を請求。按分割合は常に5割になるのですか?
はじめに(年金分割とは?)
特に結婚期間が20年以上で、お子様も成人している、いわゆる熟年離婚の場合に主に問題になるのが、財産分与とこの、年金分割になります。
年金分割は、平成19年4月から始まった制度です。たとえば厚生年金保険の場合、老齢厚生年金などの保険給付の額は、被保険者の標準報酬(被保険者が受ける報酬月額を決まった等級の区分に当てはめたものになります)を基礎に算定されます。そのため妻が結婚後専業主婦であったり、短時間のパート勤務しかしていない場合、特に熟年離婚であればあるほど離婚後就職が難しい可能性があるため、将来受け取れる年金額が非常に少なくなってしまいます。
他方離婚をしても、勤めをしている男性の方は、そのまま退職後も満額で年金を受け取れる、そういった不公平を正そうと設けられました。
年金分割の仕組みとは?
年金分割の仕組みには2種類ありますので、まずそれぞれを見ていくことにします。
➀ 合意分割(離婚分割とも)
平成19年4月1日以後に離婚などした場合に請求できるもので、婚姻期間中の厚生年金の標準報酬が分割されるというものです。
現在の国民年金制度では、国民年金(基礎年金)の上に、厚生年金部分が載っている形になっていますが、分割対象となるのは、厚生年金の被用者年金にかかわる報酬比例部分の年金額の算定の基礎になる、標準報酬などだけです。
そのため基礎年金部分や年金基金(国民年金のみ加入の自営業者などはこちらになることが多いです)、企業年金などは対象とならないため、注意が必要です(ただし、企業年金は財産分与の対象になることがあります)。
合意分割については、後述する3号分割と異なり、請求する側が他方の被扶養配偶者(いわゆる第3号保険者)でない場合でもできます。
ですから、結婚後も夫婦揃って共働きであるが、夫が一時病気のため、あるいは失業したなどで収入が減少していたことがあり、厚生年金の標準報酬について、妻が金額的に上回るという場合は、夫からも分割請求できることになります。
➁3号分割
平成20年5月1日以後に離婚した場合などに、婚姻期間のうち、平成20年4月1日以降の扶養に入っていた配偶者の、いわゆる第3号被保険期間中の、相手方の厚生年金の標準報酬を分割するというものです。
こちらの分割については、請求する方が他方の被扶養配偶者として第3号保険者と認定された期間があることが必要になります。
熟年離婚の場合は最初に少し触れましたとおり、結婚20年以上の場合をいいますから、3号分割の方は問題にならず、①の合意分割が主に問題になります。婚姻期間全体が対象になるため、熟年離婚の場合はこの部分の分割があるかないかで受け取る年金額が大きく変わっ てくることになります。
いずれの場合も、分割を受けると、厚生年金受給資格に応じた年金を受給することになりますが、自分が年金を受け取る年齢に達するまでは老齢厚生年金は支給されません。また、基礎年金の額には影響しません。
ただ、一旦分割をすれば、分割を行った元配偶者が死亡しても、自分の厚生年金受給は受けられることになります。
なお、年金分割請求は離婚から2年以内に請求されなければ、分割が認められなくなります。
年金分割の按分割合は常に5割になるのでしょうか?
これは年金分割の種類によって異なりえます。
まず、①の合意分割の場合、分割の割合については、最大で5割が上限とされていますが、当事者で合意ができれば5割と異なることも可能です。
たとえば、分割を請求している側が慰謝料額や財産分与の額などが十分で、老後の生活にあたって、分割割合が5割より低くてもよい、と同意した場合は4割とか3割で定めることもできます。
通常は妻の方から、分割割合で5割とすることを求めてくると思いますので、5割より低い割合での合意ができればそれによることになります。
それでは、夫が5割では到底納得できない、それより低い割合にすべきと主張した場合、実務上は認められているケースがあるでしょうか?
結論としては、裁判所の判断のほとんどのケースで5割とされているようで、たとえば単身赴任の期間が結婚生活の半分に及び、さらに完全に別居の期間がある場合でも5割とされています(争いになっているのは別居期間が結婚生活の中である程度以上占めるものが多いようです)。3割とされたケースがあります(元夫が元妻の年金分割を求めたというもの)が、極めて例外的といえるでしょう。
他方、3号分割の場合は分割割合は合意分割と異なり、当然に保険料納付記録等を2分の1の割合で分割することになります。そのため、3号分割については5割以外の分割は認められていません。
まとめ
このように、年金分割の種類によって異なっては来ますが、通常は5割になることがほとんどです。
話し合いにより年金分割をしないとの合意も特別な事情がない限り有効とはされていますが、離婚後お互いの生活があることから話し合いで都合よく解決は難しいと思います。
そのため、高齢化が進み、男性も退職後の人生が長くなってきている現在では、離婚時財産分与や年金分割を求められるとたちまち老後の計画が大きく変わってくる可能性があります。
離婚により、そういった将来のリスクがあることもよく考えて対応していく必要があるといえるでしょう。