支給前の退職金が財産分与の対象になる場合に,その金額はどうなるのでしょうか?
支給前の退職金の金額評価はどのように行うのでしょうか?
定年退職が問題になってくるいわゆる中高年の「熟年離婚」の際には,年金分割とともに退職金が財産分与の対象になってくるのかが大きく問題になってきます。
退職金を財産分与の対象にすることを妻側から求められることがあり,特に支給前(定年退職前)には,そもそも財産分与の対象になるのかどうかと対象になる場合にいくらと評価をするのかが問題になります。このうち,前者は別のコラムでも触れていますが,支給の蓋然性が高くない限り(そもそも勤務先などにこうした決まりがないと支給されません。経営者の場合にはこれに代わる財産か株主総会などの決議が必要になるケースが多いと思われます),財産分与の対象にはなりません。
こうした蓋然性が高いかどうか(企業の規模や業種,退職まで何年かかるか)が問題になってきます。ここは個別の事情を考えていく必要があります。確定拠出年金のうち,企業型のもの(勤務先の会社で加入しているもの)については,退職金の前払いの性格があり,運用の方法で財産額は変動するものの,少なくとも積み立て分は確定しているものと言えます。そのため,財産分与の対象となります。夫婦で築いた財産と評価をすることができます。これに対して,個人型(いわゆるideco)については,個人ごとの加入で行うもので退職金の前払いとは言いにくくなります。
金額の評価については,基準となる時点(別居時点)で退職したことを前提に,結婚前までの部分を除いていく方法が考えられます。
この方法による場合に年数で按分する方法を男性側としては提案をすることが多くなるかと思われますが,毎年同じずつではなく結婚後に大きく積み立てられるからすべて含むべきという反論を受けることがありえます。ここでいう按分とは,例えば,結婚まで10年勤務,結婚後20年勤務している場合に,20÷(10+20)=2/3を財産分与の対象にするという考え方です。先ほどの反論が成り立つかどうかは,退職金制度で逓増型の仕組みが強くとられているのかどうか等によって変わってくるでしょう。結婚時に退職したことを前提とする金額がわかるならば,ここを差し引く形になりますが,これができるかどうかは退職金の決まりも見て考えていく必要があるでしょう。
支払い方法は?
支給前の状況で財産分与の対象に退職金が含まれると,現実にお金をもらっているわけではないので支払いをどうするのかが問題になります。妻側が分与を求めている場合には,妻側から見るとお金の回収を計れるのかどうかという話になります。
何かしらを売却して支払うという場合にはこちらを検討することもありえますが,将来に実際支給される場合にそこから支払うという取り決め方もありえます(裁判例の中では,こうした判断をしたものもありますが,あくまでも裁判所の裁量により決めているもので,方法の一つで採用される場合もありうるにすぎません)。この場合には,回収側にとってはいつなのかが分からない(退職したのかどうかを含めて確認ができない)という点がありますし,
そのため,仮にこうした方法を提示する場合には,相手の懸念をなくしておく(代わりに現在の支払い負担をなくす)ということを考えておく必要があります。
分割で支払っていくという方法もありえますが,こちらも相手方との合意が必要となりますので(離婚裁判での判決では難しい),未回収リスクがないこと等を示す必要が出てくるでしょう。