よくある相談

妻が事務長・夫が院長である診察所・医療法人の財産を財産分与でどう考えるのでしょうか?

出資持分や病院の財産はどう考慮されるのでしょうか?

 病院や診療所の経営についてここで詳細は触れませんが,個人経営のものや医療法人を設立する形があります。個人経営であれば自営業となりますので,その方の財産と考えていくことになります。これに対して,医療法人ということになれば,その運営する病院や診療所の財産と経営者の財産は分けられるのが普通です。経営者と理事長(や院長)が一致するわけではありませんが,財産の出資が存在しそれに応じて出資持分があるのが原則的なものです。

 出資持分が存在する場合に,その評価額は通常法人の経営が順調で純資産が増えるなどするとその評価額も置きくなります。病院経営者が離婚をする場合には,この出資持分の評価額が財産分与の対象になるのかなどの点が問題になってきます。

 
 個人経営の病院であれば,先ほど述べたように通常の自営業と同じように財産分与を考えていくことになります。妻側が事務長などで一緒に運営をしていたケースでは特に,診療所や病院の施設が持っていず財産を含めて財産分与(このケースでは清算割合も原則である1/2であることが多い)を考えます。夫のみが医師資格を持っている場合にこのことゆえに分与割合が1/2よりも夫よりも多くなるかは妻側の貢献の実体(事務長として勤務している場合にはそこでの勤務や家事の負担状況)を踏まえますし,家も仕事も妻側が貢献をしていたといえるケースではむしろ妻側の貢献が大きいとされる場合もありえます。ただし,医師の場合には資格や業務(診療報酬)などへの貢献が夫の特に大きな努力による場合が大きいという点での特徴があります。
 ちなみに,病院や診療所が設備投資などのため負債を多く持っている(そのためトータルではプラスの財産が少ない場合)ケースでは,財産分与の対象となる財産は少なくなりますが,特に収益性が高い場合には,収益性が考慮される場合もあります。実際にどう考えるのかはケースごとの事情によります。

 これに対して,結婚後に診療所を法人化して経営を拡大したケースでは,財産分与の対象財産をめぐって対立が生じる可能性もあります。別居などの時点では医療法人となっている以上は法人の財産と個人の財産は分けられているのが通常です。これに対して妻側から当初は個人事情であったことを前提に各診療所等の資産が分与対象であるという主張がされることもありえます。もちろん,個人財産と法人財産の区別がつかない経営がなされている場合には,そうした主張に理由がある場合もありますが,きちんと分別管理をされている場合にはそのようには言えないのが原則です。ただし,出資持分の評価について医療法人の純資産と考え,出資持分を夫のみとする場合にはあまり違いがなくなります。また,出資の原資が何であるのかという点は極めて重要です。親から引き継いだものであれば財産分与の対象にはなりませんが,結婚後稼働してきた財産をもとにしたのであれば,今までの話で前提としているところですが,財産分与の対象になります。
 評価方式や出資持分の状況によっては変わってくる点があります。仮に出資持分を妻側も持っているという扱いの場合には,離婚に際してはるま側が引き続き持ち続けるというのは今後の経営上よくない点がありますので,きちんと清算をしておく(夫側その他で譲渡を受ける)必要があるでしょう。

 ちなみに,同様のことはいわゆるMS法人を設立していた場合に,その保有財産が財産分与の対象になるのか・その株式が財産分与の対象になるのか(その評価をどのように行うのか)といった点にも当てはまります。このMS法人の株主が夫婦以外である場合には,実質的に夫婦の個人財産ではないということであれば財産分与の対象ではなくなります。MS法人は節税を目的として設立する・様々な営利事業を行う等のために設立することが多いかと思われますが,財産分与の対象となるのかなどの点は一般的な中小企業と同様のことが言えます。夫婦以外のものとの資本関係や家計財産との分離などの点が重要になってきます。

 

出資持分限度や出資持分がない医療法人の場合は?

 医療法人については,相続時に出資持分が払い戻されることへの懸念(その際の評価額での払い戻しの懸念も含めて)などが存在することから,出資持分のない医療法人への移行をしているケースもあります。同様に払い込み出資額の限度での払い戻しを行う出資額限度法人と呼ばれるものがあります。

 こうした法人になっている場合に,院長が離婚をする際の財産分与ではどのように考えていくことになるのでしょうか(個人財産と法人財産がきちんと分別管理されている前提)。出資額限度法人では評価額を払い込み限度で行うことになるのか・現在の純資産額等での評価を行うのかにより,財産分与の対象となる財産が変わってくる可能性があります。ちなみに,相続税の課税に関しては出資額限度での評価は認めない(現在の純資産などを考慮した評価)とされています。先ほど述べたように,業務収益状況なども考慮される可能性があります。

 この問題が特に大きくなるのは,持ち分のない医療法人の経営者(ここでは夫を前提とします)についてです。この場合には医療法人の持ち分というものが考えられませんので,先ほどのような出資持分の評価というのは考えにくいためです。この場合にも持ち分なし医療法人となるまでの法人財産のもとが夫婦で築いた財産ということであれば,妻側からは医療法人の財産自体が財産分与の対象となる旨の主張がありえます。
 医療法人の財産自体は医療法人自体の財産であるために,こうした主張が通るのかには疑義があるところですが,実質は夫婦が経営を行い築いてきたもの(妻が強く経営に関与していたケースなど)と評価できる場合には例外の可能性はあります。また,法律上は財産分与は様々な事情を考慮して公平の観点から考える(最終的には裁判官)ところですので,特に高収益状況の医療法人であれば収益状況なども考慮される可能性(家庭裁判所での手続き,特に収益が安定している場合には何年分かの収益の考慮をしたうえでの財産分与)がありえます。そのため,他の条件面も考慮したうえでの解決を考えていくところになるでしょう。

 いずれにしても考え方には難しい面がありますので,弁護士など専門家に相談をしつつ対応を決めていくことになるでしょう。

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