よくある相談

養育費が不払いとなっている場合に,差し押さえあるいは仮差押えを受けることはあるのでしょうか?

不動産の差し押さえリスク・給与との違い

  養育費の不払いについては,差押え可能部分の面での優遇(給与の差し押さえ)や法改正により回収のための手続きの拡充が行われています。特に,給料の差し押さえについては差し押さえ禁止部分が少なくなっており,かつ未払いが発生すると将来の給与まで差し押さえが可能となる点が特徴です。他のコラムでも触れていますが,この将来給与に関しては差し押さえを取り消す手続きが存在しないので,未払いの場合のリスクは相当程度あります。

 しかも,不動産の場合と異なり,差押えの申し立てをする場合に裁判所に納める予納金の負担が極めて少ない点に特徴があります。

 

 不動産ももちろん差押え⇒競売のリスクは存在します。ただし,未払いとなっている部分のみを競売によって得たお金から回収するという点で違いがあります。また,裁判所に納めるお金は相当程度多くなります。さらに言えば,住宅ローンその他で抵当権が設定されっていれば,そちらが優先となり,こちらのローンを引くとマイナスかゼロということになると差押えの申し立てをしても取り消しになります。言い換えると,差し押さえや競売になる可能性は低くはなります。

 ただ,未払い額が多くなっている・担保がそこまでついていない場合のようなケースでは差押え⇒競売を受ける可能性は当然ありえますので,不動産しか主な財産がない場合には問題がないわけでもありません。財産開示の手続きなどで罰則が強化されており,きちんと対応をしておかないと,これらの手続きに関するペナルテイもあります。情報取得の手続きも設けられた点も留意が必要です。

仮差押えについてはどうでしょうか?

  仮差押えとは,まだ差し押さえはできないけれども,差し押さえをする根拠となる権利が存在し・予め処分をできないようにするなどの必要性がある場合に認められる手続きです。ここでの話でいうと,これまで養育費の未払いが生じている場合に,将来の養育費の回収の布石としても不動産の処分を制限することが認められるかという話になります。

 先ほどの必要性は「保全の必要性」というものですが,特に権利を保護する必要性(養育費回収の必要性)の観点から仮差押えによる制限の必要性が認められるかどうかという話です。

 

 結論から言えば,現在の最高裁の判断(最高裁平成29年1月31日決定)を基にすると,仮差押えはそう簡単には認められそうにはないように思われます。簡単に認められそうにないというのは,この最高裁の判断は高等裁判所の判断を是認しているものの,問題となっているケースではと述べているために当然に一般化できるのかはっきりしないためです。

 このケースでは公正証書で取り決めがなされ,未払い養育費が多くなっているケースについて,不動産の仮差押えが認められるかどうか問題となってい事案です。既に抵当権がついているという事情もありました。

 

 高等裁判所の判断では,公正証書等それをもって差し押さえができる書類が存在する場合には,速やかに差し押さえ⇒回収の流れによるべきだから,原則として仮差押えによる必要性がないと判断しています。抵当権がついていて,マイナスかゼロになる⇒差し押さえが取り消しになる可能性について確実なものではないことなどから,特別な事情ではないと述べています。

 最高裁の判断では反対意見では,給与の場合には将来の給与も差押えができることとの比較から不利益を差押え側に与えるべきではない・抵当権がついていてマイナスかゼロになる可能性から不利益を与えるべきではないという概要の点が述べられています。後者は将来例えば住宅ローンの返済を続けることでプラス部分が生じることが見込まれるケースでは権利保護の必要性が認められるだろうから,それが見込まれる場合を念頭に置いているようです。

 

 この反対意見で述べられているケース場合まで当然に否定されたか不明(これらの詳細は,たとえば最高裁の決定の評釈である判例タイムズ1436号・96頁に書かれています)です。したがって,確実に仮差押えがなされないとは言えませんが,ハードルは相当程度存在するのではないかと思われます。

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