よくある相談

財産分与対象財産の開示がされない場合に,財産分与に考慮される可能性はあるのでしょうか?

財産分与が家庭裁判所の手続きで問題になる場合はどのように話が進むのでしょうか?

 離婚協議の場合を含め,財産分与の中心は婚姻期間中に築いた財産の清算なので,どういう財産が存在するのか確認が重要になります。特別な合意がない限りは名義のいかんを問わないので,どのような財産があるのか・分与対象から外れる特有財産と呼ばれるものにあたるのかもポイントとなることがあります。

 離婚協議や離婚調停でも対立が大きくない場合には大雑把に金額面で調整をすることは可能ですが,対立が大きな場合や離婚調停や離婚裁判での原則形はどういった財産があるのか・金額(評価額)はどうなのかをきちんと整理することになります。離婚調停や離婚裁判といった家庭裁判所での手続きでは「婚姻関係財産一覧表」という簡単に言えば,お互いの名義の財産で財産分与対象財産だと思うものを特定し金額(評価額)も示して整理をしていくという形がとられます。財産開示をしない場合には対象を特定するなどして開示を相手に求めることになりますし,家庭裁判所を介した一種の照会手続きである調査嘱託の申し立てを行うこともありうるでしょう。

 

 相手が主張する財産分与対象財産になるかどうかを争う場合には,どの財産を争うのか・評価額を争う場合にはいくらと考えるのかも整理して主張することで対立点と立証すべき点を明確にするという意味があります。要は漏れがなくなるというメリットがあります。デメリットはきちっと整理をするために,整理をするほどに時間がかかるので,時間の経過に婚姻費用の支払いが増えるその他デメリットを感じる場合にはきちんと整理しつくすことなく解決を求めることになるでしょう。その際には解決案も同時に示していく必要があります。

 いずれにしても,全てきちんと清算対象の財産や評価の問題を解決しようという方向に進むのが原則形になります。特有財産であるというのであれば,お金の流れなどをきちんと示して婚姻後に取得した財産ではないことや婚姻後に築いた財産と混じり合ってしまっていないことをきちんと示す必要性が出てきます。

 

隠匿財産の有無が問題になる場合には?

 隠匿財産が問題になる場合には,その財産が存在することや内容を特定する必要があるのが基本ですので,そのための対応策を考えることになります。後述する最近の高等裁判所の判断もありますが,こちらがまずは考えることが多いものと思われます。隠匿財産があるのかどうかは,単に相手に隠し口座があるのではないかという憶測だけではだめですので,どこの口座・金融機関に知られていない口座(預金口座や証券口座)等があることの開示を求めることになります。

 隠匿財産の有無が問題になるケースではないから開示できないという回答が多いでしょうから,どこかわかっていればその回答・家庭裁判所に対する調査嘱託(簡単に言えば照会になります)の申立てをすることになります。調査嘱託をするにあたってはどこの金融機関・口座なのかなどある程度の特定は必要ですし,その必要性をきちんと説明する必要があります。必要性を示せない場合には家庭裁判所に採用されないこともありえます。やみくもに照会をかけられない点には注意が必要です。

 

 このようにして,どこに隠匿財産があるのか・そもそも存在することを示せない場合には,先ほど触れました婚姻関係財産一覧表には金額・どの財産か示せないことになりますので,隠匿財産があると主張しても認められない可能性が高くなります。

隠匿財産を具体的に示すことができない場合にも考慮される場合はあるのでしょうか?

 隠匿財産が特定できない場合には,隠匿している可能性を示すために相手に大きな収入があったことやお金を使っていないことなどを示してお金が存在している可能性を示すことがあります。使途不明金についてこうした事柄を行うことはありえますが,そうしたことがない場合に清算的な財産分与でどこまで考慮されるのかがここでの問題です。

 法律上は,家庭裁判所の手続きで財産分与の判断を行う場合の方法は夫婦が協力して得た財産の額その他一切の事情を考慮して分与させるのかどうか・分与する場合の金額を決めるとされています。このことは,一定の判断の枠(厳密には裁量)を裁判官に認めているといえます。ここでの裁量には合理的な根拠が必要になってきます。先ほど触れました婚姻関係財産一覧表は事実関係と評価について裁量の枠がなく厳密な判断ができる一方でその例外として婚姻費用財産一覧表に載らない(対象が特定できない)場合を認めるのか・認める場合にどこまで認めるのかという話になります。

 

 この記事記載の時点で比較的最近である裁判例(大阪高裁令和3年8月27日判決,全文は家庭の法と裁判36号に掲載)があります。簡単に何が問題になったのかをここでの話でいえば,別居前4年で3000万円を超える高額の収入はあったけれども生活費を負担していない側が提出した預金額がかなり少なかった場合に,隠匿財産の存在を示せなかったとしても可能性から財産分与で何かしらの考慮はありうるのかという点が問題になったものです。

 このケースで高等裁判所は,財産分与の対象となる財産の存在を証拠から示せない・隠匿を言われている側が開示していない財産を持っている可能性がうかがわれる場合で,こうした事情を考慮しないと衡平に反するといえる事情がある場合には,財産分与の方法や金額で考慮することが可能であると判断しています。

 分かりにくい話ですが,隠匿財産が問題になる場合には相手から財産は開示されないでしょうけれども,未開示財産が存在する可能性をうかがわせる事情が示せれば,その点を財産分与で考慮される場合があることを示すものです。婚姻費用財産一覧表に載せられないものでも考慮の可能性を示しています。問題となっているケースでは,収入額と生活費負担をしていない(預貯金を有している蓋然性を裏付ける事情)がある場合に何割かを預貯金に回せるだろうと推認し財産分与で考慮しています。

 

 開示されていない隠匿財産が存在する蓋然性を基礎づける事情は収入や生活費の負担などから預貯金などの存在を示すものが考えられます。ただ,先ほどの裁判例の判断では未開示の隠匿財産の存在の蓋然性に加えて,その存在を考慮しないと衡平に反する事情を要求しています。この裁判例の考え方をとるとして,本件で取り上げられた事情以外のどこまでが認められるかははっきりしませんが,蓋然性を基礎づける事情を準備する必要はあるでしょう。

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