よくある相談

婚姻費用や養育費で退職後の収入が実収入が原則となるのでしょうか?

算定基礎となる収入とは?

 婚姻費用や養育費を算定する際には夫婦(元夫婦)の収入などをもとに算定します。ここでの収入は基本的には現在の確実な収入になるはずなので,前年の収入下直筋の収入資料になります。今回問題とする退職をした際に支払う(退職前は夫側が収入が多く支払いをするべきケース)べき金額を算定する収入をどこでとるのかという問題が出てきます。

 

 失業給付を受けていればその金額・転職していればその後の収入額となるのが実際の収入額である以上は原則です。これに対し,転職の経緯や意図的に収入を抑えている消すでは,低い収入額をもとに算定するのが公平に反するということで,本来働くことで得られたであろう収入(潜在的稼働能力と呼ばれるもの)を考えることになります。ここでは,特に合理的な理由なく退職して低収入になった場合(その他支払いに消極的なお気持ち)から低いあるいは無収入になった場合を想定して,賃金統計や前の職場での収入が想定されます。実際裁判例(東京高裁平成28年1月19日決定判例時報1429号129頁)でも同様な考えのもとで収入についての考え方を示しています。

 

 こうなると,収入を下げる目的での退職は非常にリスクが高い行動(収入が下がりつつ養育費や婚姻費用は相応の金額になる)になりますが,退職の経緯にはやむを得ないものから様々な事情が絡み合ったものまでいろいろなものがありますから,どこまでがこの「潜在的稼働能力」に基づくのか(さらに言えば,ここでいう「潜在的稼働能力」をどこから具体的にとってくるのか)が問題になります。

裁判例では?

 先ほど紹介した裁判例以外に比較的近い時期の裁判例(東京高裁令和3年4月21日決定・家庭の法と裁判37号35頁)が,どのような場合に「潜在的稼働能力」により考えるのかについて判断を示しています。

 判断による事実認定では,このケースでは自主退職をした夫側に対し,婚姻費用の分担を妻側が求めたものです。退職後の収入額をどう考えるかが争点となったものですが,夫側が病気を原因として自主退職し田という事情があったものです。このケースでは1審で退職直後の状況や病気を考慮して,ある程度の収入があるはずだろうという「潜在的稼働能力」を認めたものですが,2審ではその判断が変更されています。

 2審の判断では,収入算定は実収入が原則である・「潜在的稼働能力」を考えるのは,客観的に見て就労制限するべき事情が存在しない・合理的な事情がない場合に稼働しないときであるとされています。このケースでは,病気の影響や退職の経緯となっていることや就労が可能でなかったこと(それゆえに就職活動ができなかったこと)を考慮して,そうした「潜在的稼働能力」を考えるべき事情がないと判断しています。

 

 こうした就労制限や稼働が難しい事情があるのかどうかは,退職をした場合にはその経緯・その後就労が制限される事情があることを,請求を受けた側で示す必要があります。病気やケガなどの影響である場合には診断書や状況を示すものを積極的に出す必要があります。単に抽象的に稼働が難しい・働いていない(就職活動していない)というだけでは難しいでしょう。逆に,こうした事情があれば「潜在的稼働能力」を言うのは難しくなるものと思われます。

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