違法な連れ去りの有無を考えるにあたり,監護に関する合意は同考慮されるのでしょうか?
違法な連れ去りにあたるかは同考慮されるのでしょうか?
夫婦の別居時に子供を一方が連れて出ていくことで,子どもの監護者の指定や引き渡しの紛争になることがあります。争う(連れて出られた側が家庭裁判所に申し立てる)かどうかを決める際には,見通しや納得感などを考えておくことは有用のように思われます。
感情的な対立もありますが,その際に連れて出たことが違法な連れ去りにあたるのかが問題になります。別居の前に夫婦間にケンカなどが存在し,そこで覚書などが作成されることもケースによりありえます。覚書がどのようなものかはケースにより様々ですし,その作成の経緯も様々考えられますが,修復を図りたい側が一定の要望を受けれ入れることで作成をされることがあります。内容も慰謝料の話や離婚をするのかどうかの他に,子どもの親権などに関することもありえます。
違法になるのかどうかは,別居前の生活状況やその後の状況などの事情を考慮することになるとされています。違法と判断されなことはそこまで多くはない印象がありますが,それだけの連れ去りをするだけの事情があったのか・態様がどうなのかなどが問題とになりえます。違法な連れ去りに該当する場合には,緊急な引き渡しが問題になりますので,緊急な引き渡しを認めるか否かという点でも問題になります。
比較的最近の裁判例では?
比較的裁判の裁判例で先ほど触れた別居に近い時期に作成された示談書が存在する場合に,違法な連れ去りの有無などが問題になったケースとして,東京高裁令和1年12月10日決定(家庭の法と裁判37号59頁)を取り上げます。
決定文などによる事実関係では,比較的幼い子供がいて妻側が同居中に多く面倒を見ていたケースで,別居前に暴力(夫から妻)でトラブルになりその際に示談書が作成されたものです。そこでは概略今後の協力やトラブルの解決の他に,将来仮に離婚になる場合には妻側が親権者になると記載されていたものです。示談書作成後にそこまで時間をおくことなく,妻側が子どもを連れて家を出たことに対し,夫側が子どもの監護者の指定や引き渡し・緊急に引き渡しなどを求める申し立てを家庭裁判所に行ったものです。
ここでの判断は,緊急に引き渡すかどうかの判断をしたもの(決定文の記載からは,最終的な判断ではなくそのための家庭裁判所調査官の調査もこの時点では終わっていないようです)です。そこでは,判断の時点までの引き渡しなどが認められる蓋然性と緊急の必要性が存在するかどうかが問題になります。その際の蓋然性や緊急性の要素に関わるところとして,突然家を出たことが違法な連れ去りにあたるのかどうかも問題となっています。
このケースでは,示談書の記載には離婚に向けた場合には妻側が親権者になるとの記載があったことから,その前提としての別居時にも妻が監護を行う(連れていく)ことへの了解があったのかも問題となりうるものです。
1審で緊急の引き渡しが認められたのに対し,2審では緊急の引き渡しが認められなかったものです。1審の判断では示談書の作成経緯や内容その他を踏まえて別居が違法な連れ去りになるのかどうかその他を判断しています(その他には監護者としての適格等)。これに対し,2審では示談書に関して内容や経緯も踏まえたうえで,違法な連れ去りになるのかどうかには大きくは考慮できないと判断し,別居前の監護をメインに行っていたのが妻側であることなどを踏まえて,違法な連れ去りとまでは言えないと判断しています。このほか,調査状況などを踏まえて判断を行い最終的な結論を出しています。
このように,示談書が作成されたからと言ってそれで当然に違法な連れ去りにあたるのかとは言えず,作成の経緯や別居前の監護状況や連れて出た経緯,その後の状況などを踏まえての話になろうかと思われます。そのため,一概に違法になる場合・ならない場合ははっきりしませんが,先ほど触れたように,そうするだけの事情の存在や別居前後の監護状況は影響するところがあるように思われます。