よくある相談

離婚裁判や調停で取り決めた面会交流の条項が守られない場合に,賠償請求は認められるのでしょうか?

はじめに

 離婚裁判で和解が成立したとき・あるいは離婚調停成立のときに面会交流についての条件面に関する条項を入れることが増えてきています。ただ、面会交流の条項は、養育費の支払いなど、金銭支払いに関する条項と異なり、履行がされなかったとしてもただちに強制することは難しく、離婚が成立したとたんに守られないというケースもみられます。そういった場合も含め、取り決め通りに面会交流が行われないとき、面会交流を求める側の親から相手に対して損害賠償の請求が認められるかどうかについて、最近判断された事案を踏まえて取り上げます。

面会交流の条件面を細かく取り決めないと債務不履行などは認められない?

    割とよく見られるのは,調停や和解上の義務の債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づく請求・面会交流の実施を妨害したことが不法行為に該当するとして,不法行為による損害賠償請求権に基づく請求をするといったケースです。

    この点、東京地方裁判所で出された判決(令和21210日)では、当事者双方で,調停期間中に条件等が折り合わず中止になるなどトラブルが絶えなかったことから,可能な限り両者で調整せずに済むように面会交流の日時・場所,方法等の条件が一義的に決まるよう詳細な取決めをして調停条項に合意したというケースです。これによれば調停条項で面会交流に関する合意が形成され,それに基づいて子との面会交流の機会を持つこととなった非監護親は,同条項に基づく子との面会交流を不当に妨げられないという法律上保護された利益があるとしています。そこから監護親が不当にその機会を奪われた場合は,債務不履行や不法行為が成立するのが相当としています。この場合であっても、面会交流は子の利益を最も優先すべきであると法律上されている点を考慮して、面会交流を中止することに正当な理由があれば,面会交流を中止について不法行為ないし債務不履行は成立しないとしています(この裁判例についても最終的には不法行為ないし債務不履行の成立を否定)。
 このように、調停条項(ないしは裁判での和解条項)で面会交流の条件面について細かく取り決めされている場合には、条項の取り決めにも拘わらず、面会交流ができなかったことが不当といえれば債務不履行や不法行為にあたりうる可能性があります。ただ、中止の理由がどういった経緯によるものかなど、細かく事情を踏まえた上での判断になってきますので、実際のところ実施されなかったからただちに債務不履行や不法行為にあたるわけではなく、それなりのハードルがあるといえます。

調停条項などで面会交流の条件をおおまかにしか決めていない場合は?

    上記事案と同じ頃に、やはり東京地方裁判所で、別居して以来一度も面会交流が実施されていなかったというケースで、離婚時の裁判上の和解条項の内容から条項を守る義務違反がいえるかどうか判断しているものがあります(東京地方裁判所令和21216日判決)。このケースでは,一定の条件で面会交流することを,当事者双方が確認しているにとどまり、条件面でも日時又は頻度については「おおむね〇か月に1回の程度の割合」とされているだけで,子どもの引渡しの方法も定められていないというものです。ここから、具体的な内容の特定がされているといえないとして、和解の債務不履行があるとはいえないものと判断しています。もっとも、上記和解内容であっても面会交流の実施の条件について、ある程度の具体性はあるといえ、面会交流の日時,場所等の決定に関して当事者双方の協議によるとされていること、面会交流を円滑に実施することが和解の目的のひとつと考えられることから,互いに和解に従って面会交流を実施するために具体的な日時や場所,方法等の詳細について誠実に協議すべき条理上の注意義務(誠実協議義務)を負っているとしています。そして、子を監護している相手方がこういった誠実協議義務に違反しているといえるか検討しています(結論としては否定)。

 実際のところ面会交流の条項では、行う頻度についておおむね○か月に1回程度と定めるケースは割とみられますが、それ以外についてはそのときに応じて具体的に日時や実施場所や引渡し方法を協議して定めるとして、細かく取り決めないケースが多いと思われます。そのため、細かく決めていないから債務不履行にはならない=賠償請求も認められないとしてしまうと、具体的な取り決めをするにあたって協議にすら応じなかった場合であっても子を監護している親は何ら責任を負わないということになってしまいます。この裁判例では、そうではなく、面会交流の条件について細かく取り決めていなかったとしても、面会交流を円滑に行うにあたり、詳細に取り決めができるよう、監護している親に誠実に協議する義務があると認めた点に意義があるといえます。

    したがって、面会交流の条件について細かく取り決めていなかったとしても、その後実施することができるように監護している親が誠実に協議したかどうかという点がポイントになってきます。それにあたっては、非監護親から面会交流の申し入れがあったかどうか、それに対する監護親の対応、子どもの意向なども含めて考慮していくことになります。

    賠償請求が認められるかについてどのような点が考慮されているかについては、次回取り上げます。

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