よくある相談

一度決まった財産分与の額が権利濫用になるなどして支払わずに済むことはありますか?

離婚時の話し合いで決めた高額な財産分与の支払いを免れることがありますか?

 離婚の際に一方が高額な金額の支払を求められ,納得いかないところがありながらも早く離婚したいという思いから話をまとめたあとに,事情が変わって支払が苦しくなったということがあります。養育費の支払いであれば,収入減少や扶養家族の増加などを理由に事情変更をしたとして養育費減額を求めるケースはよくみられます。他方、このような財産分与などの名目で取り決めをしたあとに、そのままの内容で請求を求めるのは権利濫用であると主張することはできるのでしょうか?

 少し前の裁判例になりますが,東京高裁平成2年6月27日の判決では,離婚時に元夫婦が交わした財産分与ないし慰謝料の取り決めについて,将来の支払いの一部について権利濫用として認められない部分があると判断したものです。このケースでは離婚にあたって元夫が元妻に対してマンションと預貯金500万円余りを渡し,その後も元夫が23年にわたりマンションの住宅ローンの支払い,給料から住宅ローンを控除した額の半額,賞与から20万円を控除した残額の支払いをするという内容の約束をしていたというものです。実際に問題になった頃がバブル期のようですので,離婚時に渡したマンションの価格が時価2000万円から4500万円近くにまで値上がりしていたというかなり特殊な事情があります。

 このケースでは,離婚から5年ほど経過していること,元夫婦双方の年齢,結婚年数や経済的状況からみて,離婚にあたって約束した財産的給付が通常の場合についてかなり高額であったと認定しています。その上で,ただちに否定されるものではないものの,元妻は離婚後自活できる状況になっていると思われること,元夫婦それぞれの収入と家族数,住居費がかかっているかどうか(元妻は元夫が住宅ローンの支払いをしているに対して,元夫は賃貸物件に住んでおり賃料支払がある)どうかなどからみて双方の生活費の状況が不均衡になっていること,離婚時に上記価格が高騰しているマンションと預貯金を受け取っていること,今後の支払額合計が約1000万円に達することから,将来の給料と賞与の支払いを求める部分については権利濫用で許されないと判断しています。

 他方で住宅ローンについては元々マンションのローンは元夫が債権者になって借り入れしていたものであり,元妻に金額分を渡して支払をしていたというところから、いずれにしても元夫が支払うべきものであるから,支払を引き続き元夫が行うとするのは権利濫用に当たらないとしています。

 このケースから読み取れるのは,いったん財産分与などの名目で離婚時に支払に関する取り交わしをしていても,そもそもその内容が過大であれば離婚後の事情も考慮の上廃除されることはあるということになります。ただ、遡って支払をしていたものについてまで返還が認められるわけではなく,基本的には将来支払うものにだけ考慮の余地があるということになりますので,安易に高額の財産分与などの約束をしないというのが一番といえます。

裁判で決まった財産分与額が高額であると争えることはありますか?

 もう一つのケースは裁判で財産分与として億単位で支払が認められていたものについて,分与対象財産である不動産について元妻が強制執行の申立をしたところ,元夫がバブル崩壊により大幅に価格が下がり,競売後に自分が受け取れるお金がほとんどないことを理由に強制執行が権利濫用として許されないのではないかと主張したというものです(東京地裁平成5年11月24日判決)。こちらも少し前の裁判例であり,前述のようにバブルによる価格変動の影響があるケースです。

 裁判では,財産分与が億単位の金額に決められた経緯などを加味して,単に不動産の資産だけでなく,慰謝料や他の財産があるのを前提に(元夫は他の預金資産など開示していなかった)総合的にみて決めたものであり,また価格減少はすでに裁判が終わる前から始まっていたことも踏まえて,重大な事情変更とはいえないとしています。

 このケースでは特に裁判手続きを経て財産分与の金額が決められていることを重視しているといえることから,よほど裁判の中では考慮されていない事情の変化がない限り,一度決められた金額の変更に裁判所が容易に対応しないことが読み取れるといえます。

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