財産分与の対象財産の開示に応じないことでのデメリットはあるのでしょうか?
財産分与で問題になる事項と清算対象の開示の請求
財産分与は理屈や法律の言葉上は必ずしも夫婦が結婚後に築いた財産の清算とは限らないのですが,実際には清算が問題になることが一般的なように思われます。その際に,清算の対象となる財産がはっきりしないとどの程度清算するのかは不明であるので,財産の内容と評価(株式や不動産など)が問題になることが多くなります。
内容をはっきりさせるために,財産の開示を求める・どこの金融機関の支店かがわかる場合には裁判所を通じての照会などを求められることがあります。この場合に同意するかどうか・開示に応じるのか,応じるとしてどこまで開示を行うのかは考えるべきポイントの一つになります。開示を行う場合に,別居時点を仮にどこまでの財産があったかを示す時点とする場合に,その際の残差化の身を示すことがありえます。この開示で十分な場合もありますが,特に隠し財産の存在などが問題になる場合には,途中の出入金の開示(一定期間における取引履歴の開示)を求められることもあります。この場合には隠し財産の存在などが問題になります。
対象財産がどこに・いくらあるのかを詰めていく形の審理を裁判所で行う場合には,開示がされない場合には財産がないという扱いになりえます。これに対し,最近ではバランス方式と呼ばれる審理方式が裁判所での審理の方法として提案され,一部の裁判例で財産分与の内容を決める際の「一切の事情」の一つとして考慮されているものがあります。
開示に応じない場合に,推計計算に基づく清算がなされることはあるのでしょうか?
法律上の言葉にある「一切の事情」を考慮して財産分与の内容を決めるということで,柔軟な判断(厳密に清算対象の存在と金額が証明されていない場合に,一定の考慮を行った)裁判例が存在します。今回はその中で,取引履歴の開示を財産分与を求められていた側(支払いを求められていた側)が行わなかったケースについて触れておきます。大阪高裁令和3年1月13日決定・家庭の法と裁判38号・64頁は,そうしたケースについて,判明する部分と出金・入金の推計から残高の推計を行った(支払いを求める側が推計をしたもの)について,その残高相当額の財産の存在を推認したものです。
取引履歴も個人情報であることから,開示に同意をしない場合には開示をされない場合もあります。このケースでは結論からは1審・2審ともに推計の合理性を認めて,推計された残高相当額の存在(実在金額かまでは不明)する蓋然性が高いとして,その存在を推認しています。そこでは,他に手続きに協力しないことから推計もやむを得ないという考慮もされており,開示に応じないことが不利益にはたらく可能性も示されています。
このケースでは2審段階で一部追加開示されたものの,別口座に移っての形もありうることから推計相当額が他の口座に存在することを推認しています。実際に,こうした審理方法が一般的になるのかどうかという問題はあります。ただ,実際の状況と今回取り上げた不利益の可能性も踏まえて,どう対応するのかは判断をする必要があります。