よくある相談

標準算定表などでの上限収入よりも収入がある場合の婚姻費用や養育費の算定方法とは?

方法は複数存在し,それぞれ裁判例があります

 いわゆる標準算定表等では上限の収入が給与で2000万円(支払い側)・自営で1567万円(支払い側)とされており,これ以上の収入がある経営者や医師などについてどう考えるかは裁判例・見解は分けれています。いくつか考え方はありますが,①今触れた上限の収入と考えて算定するという考え方②収入が多くなるとその分税金お負担が大きくなると考えて,収入に関して標準算定表等の収入に修正を加える考え方③先ほどの②と同じように収入に修正を加えますが,収入から見ての貯蓄率も考慮するという考え方④浪費を除く実際の生活状況から考えるという考え方,が主なものとして挙げられます。

 

 このうち,①は上限よりも多い金額は貯金に回ったものとして離婚時の財産分与で清算するという考え方です。②は収入が多くなると,生活部分に回すお金の金額が税金の負担が高くなる等の個別の事情によって,基礎収入と呼ばれる婚姻費用(生活費)や養育費を考える際に生活に回すお金の割合は少なくなるものとする考え方です。③は収入が多くなるほど生活に余裕ができて貯蓄に多くお金が回るだろうという前提で生活費に回る部分はそれよりも少ない収入よりも少なくなるとする考え方です。④はそれまでの生活実態が大きく変わらないだろうという前提で生活に回すお金に対応する収入があるとする考え方です。

 

 支払いを求められた側はもちろん,有利になる考え方などを示していくことになりますが,以上の考え方のどれを取るかは仮に裁判所での手続きの場合には裁判官の判断になります。途中で考え方が示された場合には,その後の影響や見通しを考えて対応を決める必要が出てきます。

 ただ,②の考え方は税金の負担(こちらは税務資料や累進的な税負担でわかりやすい)はともかく,他の事情がなんなのかはきちんと主張しておかないといけなくなります。そもそも,個別の事情とは何なのか・生活に回るお金への影響がなんであるのかという話も出てくる可能性はあります。同様の話は③についてもいえますが,総務省の出している貯蓄・家計に関する資料を踏まえてどうであるのかという点の検討は重要になってきます。④は,浪費や生活費の内容をきちんと示しておく必要があります。

最近の裁判例では?

  先ほども触れましたように,それぞれの考え方に応じた裁判例が複数存在し,必ずどの方法がとられるのかという点は確定していません。元裁判官の方が書いた文献や裁判例などが掲載している雑誌の解説部分には紹介や解説がなされています。その中で,比較的最近の裁判例として大阪高裁令和4年2月24日決定(家庭の法と裁判43号69頁)について簡単に触れておきます。

 このケースは,1審で先ほどの④の方法を採用したのに対し,2審で③の方法を採用して支払い側の収入を考え,婚姻費用(生活費)の判断をしたものです。このケースでは標準算定表の上限収入を大きく上回る開業医の夫に対して別居後の生活費の請求がされたものです。別居時の預金からの出金を生活費の前払いととらえるのか・妻側の稼働能力の有無や内容・夫側の収入をどう考えるのかなどが争点となっています。今回触れているテーマはこの最後の点です。

 このケースでは,収入から基礎収入(簡単に言えば生活に回す部分)を算定するにあたって差し引く,税金や社会保険料・職業費(仕事をするにあたってかかる経費)・その他特別な経費を標準算定表とは異なる事情があるとみて修正しています。この意味では②・③の方法に沿っています。ただ,一定の貯蓄分まで差し引くとしている点で③に沿った方法と考えられます。職業費・特別な経費は総務省の出している家計調査年報(統計資料)を参考に考えています。貯蓄率については具体的に何に依拠したかは不明です。一般には今出てきた総務省の資料によるのではないかと思われます。

 

 1審との考え方が変わった理由は定かではありません。ただ,生活状況の把握・浪費部分が何かは分かりにくい点もありますので(別居前と別居後),こうした点の影響があるのかもしれません(こうした点の詳細は掲載雑誌の解説欄で検討されています)。

 いずれにしても,高額所得の場合は特に収入をどう考えるのかについて大きな問題があります。

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