収入資料(確定申告書)の提出をしない場合に,収入はどのように推定される可能性があるのでしょうか?
養育費や婚姻費用の算定基準となる収入は何を基に算定するのでしょうか?
婚姻費用や養育費を考える上では標準算定方式は一つの基準であり,そこでは基本は収入がポイントになります。源泉徴収票や市県民税の証明書・確定申告書がその根拠となります。ケースによっては他のコラムで詳しく触れていますが,潜在的稼働能力ということでこの程度の収入があるだろうと推計をする場合もあります。給与収入であっても年による変動が大きな場合にどう考えるのか・事業収入の場合に確定申告書の記載項目のうち,どこまでを算定上の収入と考えるのか等の問題があります。
実額をどう考えるのかという話以外に推計をどう考えるのかという話がケースにより異なってきます。突然に仕事を辞めた場合や稼働をしないケース,収入資料の提出などがない場合は問題になりうるケースです。
確定申告書を提出しない場合には?
家庭裁判所の手続きで確定申告書の提出を求められても応じない場合には,調査を求める手続きや推計で計算をする可能性があります。前者については税務署への照会には回答が出てくるかどうかという問題があります。だから提出に応じないことで収入がないので婚姻費用や養育費の金額が大きく落ちるかといえばそうはならない可能性が十分すぎるほどあります。
その場合には賃金センサスという賃金統計(どの平均をとるのかという問題はあります)を使って推計を行う・収入を出さない方のそれまでの収入から平均値をとって考える(推計する)などの対応をされる可能性があります。資料を出さない場合には,その分収入が大きいからという勘繰りにつながることもありうるところですが,通常提出に応じない場合にはそれだけ直近時期の収入が大きいこともあるかもしれません。
比較的最近のケースではその方の職業にかんがみ少なくとも標準算定方式の上限(自営収入の上限である1567万円)はあると推計されたものがあります。宇都宮家庭裁判所令和4年5月13日審判(家庭の法と裁判46号88頁)では,養育費の減額に関する判断です。このケースでは元妻側の再婚相手(ただし,養子縁組はしていない)の収入がどうか等が問題になったものです。養子縁組をしていない相手の収入が考慮されるかどうかも一つの大きな問題ですが,考慮される場合にはその収入がいくらかが問題になります。
ここでは再婚相手が開業医であることから確定申告書から収入がいくらかわかるのでその提出が問題となったようです。提出拒否があったことから収入がいくらかをどう推計するかという話が出てきますが,開業医の統計上の平均収入を活用する方法もありえます。このケースでは少なくとも算定方式での上限収入よりは多いだろうということで上限の収入を推計しています。
養育費の支払いを求められた場合ではありませんが,逆の場合でも参考になる点はあるかと思われます。