別居後に夫婦間で起きた事情を基に慰謝料請求をすることは可能なのでしょうか?
慰謝料の根拠とは?
離婚が問題になる際に慰謝料請求がされることはそれなりにある印象ですが,その根拠となる事実は様々です。暴力や不貞行為の場合には個別の暴力や不貞行為がその根拠になりますが,モラハラ行為やその継続によって婚姻関係が破綻した(離婚を余儀なくされた)という場合には,離婚を余儀なくされたことを根拠とする慰謝料請求というものがありえます。
離婚協議や離婚調停の際にそこまで明確に話をすることはないかもしれませんが(細かくこだわることなく問題解決できる点が話し合いのメリット),離婚裁判の場面では,いつから時効になるのか等が問題になることもありえます。請求に応じるかどうかは,事実関係がどうか・法的に見て慰謝料が生じるようなケースなのかという点を考えてからになります。ただ,婚姻費用が多く長く解決まで時間がかかる場合には慰謝料ではないけれども幾分の解決金名目のお金の支払いを考えることもあるかもしれません。
現在の法律では身体に関するケガなどは時効の期間が延びています(以前は3年)が,不貞行為自体は3年である等無視できない面があります。
離婚を余儀なくされた慰謝料はいつまで生じるのでしょうか?
離婚を余儀なくされた場合の慰謝料は当然婚姻関係が破綻した後の出来事からは生じないように思われます。不貞行為については,家庭内にの平和を害するということから,既に破綻していてこうした平和を害しないような場合には,慰謝料は発生しないという最高裁の判断(最高裁平成8年3月26日判決民集50・4・993)が存在します。
同様に考えると,破綻したといえる事情が存在すれば,同じような話は当てはまるでしょうけれども,破綻したといえるかどうかは評価(最終的には離婚裁判での判断で裁判官が判断して分かる事柄)ですから,何をもってそうなのかという問題はあります。それはともかく,比較的最近の裁判例(東京家裁令和4年7月7日判決・判例タイムス1505号247頁)では,親権者の指定に関する争点(詳細は先ほどの判例タイムスの解説部分で記載があります)のほかに,別居後の事情(事実認定されていますが,様々なトラブル事情)が離婚を余儀なくされたことの慰謝料の原因にならないと判断しています。これは,その事情が夫婦関係が破綻した後の事実だからというものです。この判断には前提として夫婦関係がいつ破綻したのかという判断をする必要があります。
具体的な離婚の話が進んでいた(離婚には争いがないケースや不貞など)ことから,すでに夫婦関係が破綻していることが分かりやすい場合はともかく,そうした事情がない場合には別居したからすぐに夫婦関係が破綻したとは言えない点は重要なように思われます。結局,別居後の事情であっても,婚姻関係が破綻した後の事情とは当然には言えない可能性は相応にあります。その事実関係が生じるまでのやり取りなどから見通しを立てるしかありません。そもそもの離婚原因が弱い(確たる原因がない)と思われるケースでは別居後の事情も含めての破綻でしょうから,いつから破綻したといえるのかはわからない点は注意が必要でしょう。