婚姻費用や養育費の変更を考えるにあたり,変更請求の原因事情以外に考慮される要素とは?
請求の根拠となる事情が生じる前の事情は考慮されるのでしょうか?
一度決まった養育費や婚姻費用について,事情変更が生じた場合に,増額や減額の申立てを家庭裁判所に対して行う必要があります。事情変更といえるのかどうか・それによって変更を相当とする事情があるのか等が問題になります。いつから変更かという点の問題にはなります。例えば,減収その他を理由として減額の申立てをした場合に,減収前の事情が考慮されるのかという問題があります。今あげた例であ言えば,一度取り決めた後大きく収入金額が上がり,その後減少した場合です。
考慮されないことも多いのではないかと思いますが,どう判断するか考慮するかは裁判所の裁量にゆだねられている部分もあり,比較的最近考慮が認められた裁判例もあります。そのため,考慮されることはケースによってはありえます。一応紹介しておきますと,東京高裁令和5年6月8日決定(家庭の法と裁判54号・81頁)です。経緯などの詳細は掲載誌に記載がありますが,ここでは簡単に触れておきます。
一度婚姻費用を取り決めた後で,減額請求を行ったというケースです。争点自体は減額事情となる減収といえるだけの事実関係があるか(根拠資料の信用性などが争点),その他があります。その他の争点についてはここでは省略します。結論から言えば減額は認められたケースですが,当初の婚姻費用取り決め(これ自体が裁判所判断)をした基準時(裁判所の審理終結辞典)以降の増収(支払うべき側について)を考慮するかどうかで,1審と2審の考え方が分かれています。
簡単に言えば,1審は考慮せず,2審では考慮を行い差し引き清算を行ったというものです。ここでいう差し引き清算とは,当初取り決めで想定されていた収入よりも多い部分と・減収を認め減額となるため払い過ぎとなる部分,を差し引き清算したというものです。2審の判断では,公平の簡単から調整を認めています。
公平の観点からという話はケースごとの事情による側面がありますし,裁判所の裁量によって決めるべき事項とされていますので,一般的に必ずこうなるというわけではありませんが,全く考慮されないことばかりではないという点では注意が必要でしょう。
未払いの方が多い・過払いがある場合の清算はどうなるのでしょうか?
先ほど触れましたように,減額を認める時期が減収や再婚・養子縁組をしたという減額事情が生じた時期とみるか・請求時期(厳密にはここもどこをもってそういうのかという問題があります)なのかという問題もあります。仮に前者の場合には支払いすぎをどうするのかという問題が出てきます。養子縁組を元妻側が子どもについて行った場合に養育費の支払い義務がゼロと考えるならばなおさら問題になっていきます。
話し合いがつけば問題はありませんが,つかない場合には裁判官の判断になります。減額となる時点を請求時点として考慮しないという可能性は十分にありえます。公平の観点から考慮されるケースもありえますが,相手側の事情などに照らして容易に認められるわけではないようには思われます。仮に支払いすぎを認めて解決を図る場合には,将来の養育費や婚姻費用について,一定期間少しずつ減額をするという解決策(話し合いの方が柔軟には調整できます)ということはできます。先ほど挙げた裁判例のように一部増額を考慮する場合には差し引き清算という可能性もありえます。
ただ,話し合いがつかず,養育費の減額請求(家庭裁判所への申立て)で過払いを認める判断が出ても,この話をもってしても支払いを求めることはできません。別に簡易裁判所あるいは地方裁判所に裁判を起こして支払いを命じてもらう必要があります。解決にどこまでの時間と負担をかけるのか・見通しがどうなのかなどを考えていく必要があるでしょう。
実際に,過払いの清算を認めてもらえるのかどうか・差し引き清算ではどうか・その後さらに裁判を起こす負担を負うだけの意義を見出すのかどうかは難しいところですが