よくある相談

結婚してから同居をしていないのに生活費の支払い義務は生じるのでしょうか?

婚姻届けを出すことで生じる義務とは?

 婚姻届けを出すと結婚したと法律上扱われる状況になります。社会保障その他で紐づけられている部分もありますが,法律上婚姻をすることで,同居すること・助け合うこと(扶養をする)・貞操義務を負うことになります。生活費の支払いは,扶養をする義務に基づくもので,夫婦間では自らの生活を犠牲にしても相手の生活を助ける義務とされています。余力があるときだけ助けるという話ではないというのがここでのポイントです。

 結婚してから一度も同居をしないということは,相手が同居の義務を果たしていないということになりうるところです。そうであれば,自らも生活費(婚姻費用)の支払い義務を負わないのではないかというのがここでの問題です。心情的には自分が義務を果たさないのに相手に義務を守るように求めてくるのはおかしいではないかということで,理解できる面はあります。

 そもそも,結婚する意志がない場合など,結婚の実態がないような場合には,婚姻をする意思があるのか等の面で問題が出てくるので,婚姻に伴う義務を負わないということは十分ありうるかと思われます。ただ,同居をしていない理由には様々あり,そもそも結婚をする意思があるといえる場合などは婚姻自体はあることから,その義務を負うことが原則になるところです。各義務は別個のものなので,一つ守らないことが他方の義務をなくす原因にはならないということがハードルになってきます。

婚姻費用の支払い義務がなくなる場合とは?

  生活費の支払い義務は,法律上結婚したと扱われる状況が生じることで負うべき義務になります。ただ,請求をすることが信義に反するとか・そもそも婚姻が実態もないようなケースでのみ制限されるのが基本線かと思われます。前者は,不貞行為を行うなど婚姻が破綻する原因を専ら作った側からの請求で生じうる可能性があるものです。モラパラということから,実際に制限をされる場合はかなり陰られてくることになります。

 同居をしないことが一方的な夫婦関係の破綻といえるようなケースになるでしょうから,一応の理由がありそうなものはそう簡単に認められないことにはなりそうです。後者は先ほど触れましたが,婚姻の実態が最初からないことで,そもそも同居の予定もなく,婚姻をする意思自体が結婚前のやり取りなどからあるかどうかかなり疑わしいようなケースは該当するように思われます。ただ,かなり限られた場合になるのではないかと存じます。

 比較的最近の裁判例(東京高裁令和4年10月13日決定・判例タイムス1512号101頁)では,1審の判断を覆して,婚姻費用の支払いを命じています。1審では,結婚してはいるものの,生活状況などの事実関係から,生活費の負担義務(婚姻費用分担義務)を負うべき事情もなく,支払いを求める側も自らの生活費は稼げる事情があるとして,生活費の負担義務を否定しています。これに対して,2審では法律上結婚をしたと評価される事情(婚姻届けを出す)ことで生活費の支払い義務は負うものであるから,事実上同居をしていないなどの事実関係から生じるものではないと判断しています。例外的に婚姻関係を破綻していることについてもっぱら責任がある側からの請求等の事情がない限り,結婚をしているものと法律上評価できれば,生活費の支払い義務を負うとしています。そして,このケースでは,交際辞典など結婚前の事情も考えると,婚姻届けの提出の際に結婚をする意思がないという話にはならないからということ(法律上結婚していると評価できる)・例外に当たるような事情がないとしています。生活費の支払い義務を負うからということで支払いを命じています。

 ここでいう1審の考え方(事実関係を重視)がどこまで他のケースで同様の考えを取られるかによります。2審の考え方が原則となると,支払い義務を応じることが通常ということになります。同居を一度もしていなくても,生活費の支払い義務を負うことは十分ありうるということを念頭に,実際にどうなのjか等の対応をどうしていくのかを考えていくことになるでしょう。

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